前傾×心拍×接地のトリレンマ。厚底シューズに踊らされる【3歩目】

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前回、ランニング界の「餅屋」に従いFleet Feetへ駆け込み、ついに手に入れた憧れの最強ギア、アシックス「ノバブラスト(NOVABLAST)」。

NOVAとはラテン語で「新しい」を意味し、天文学では「新星」を指すらしい。BLASTは英語で「爆風」「突風」という意味だ。きっと「爆発的な推進力をもたらす、全く新しいシューズ」的な意味合いが込められているのだろう。かっこよすぎる。

「これで私の膝痛ロードはおしまい。最強の厚底ランニングシューズさえあれば、これからはスマートで快適なランニングライフが始まる!」

そう確信した私は、この最強ギアのポテンシャルを100%引き出すべく、2回目の実走に向けてさらなる万全を期すことにした。初ラン後にランニングフォームやペースの重要性を理解し、実践するため、ネット、YouTube、そしてAIの力を借りて、初心者が膝を痛めないための正しい走り方を徹底的に調べ上げた。

知れば知るほど、ランニングは奥が深い。 細かい内容は割愛するが、2回目の実走に向けて私が頭に叩き込んだ、完璧(のはず)の理論武装がこれだ。


1. ランニング初心者必読!膝の痛みを防ぐ「理想のフォームとジョグの目安」

調べた結果、初心者がランニングで膝を痛めるのを防ぐための黄金律は、以下の3つだと知った。

  • 「腰高」と「骨盤前傾」のランニングフォーム
    猫背は絶対にNG。頭のてっぺんを上からピンと糸で引っ張られているようなイメージで腰の位置を高く保ち、骨盤から体全体を少し前傾させる。
  • 「真ん中接地」と「体の真下で着地」の意識
    「接地」とは足裏のどのあたりを最初に地面に着くかという問題だ。かかとから着地する「ヒールストライク」は、走るたびに体に急ブレーキをかけるようなもので、膝へ強烈なダメージを与えるので絶対にダメ。着地は、足の真ん中で衝撃を逃がす「ミッドフット(真ん中接地)」を徹底する。しかも、必ず「体の真下」に足を着くのが正しい着地方法だ。
  • 心拍数145以下(最大心拍数の80%)をキープする「ゆっくりジョグ」の徹底
    ランニング初心者はとにかく、ゆっくり走る「有酸素運動のジョギング」が基本。プロでも練習の8割はジョグに割いているらしい。 体に負担をかけない安全なジョグペースを維持するため、一般的な計算式である「最大心拍数 = 220 - 年齢」から自身の数値を算出。そして、安全なジョグ上限(80%強度)である「145 bpm 以下」を絶対にキープするというルールを課した。このデッドライン(145bpm)を超えたら警告してくれるよう、スマートウォッチ(ガーミン)のバイブレーションアラート(心拍アラート機能)をガチガチに設定した。

    (※注:この計算式や心拍数の設定は、ガーミンが私の当時のデータを元に算出してくれた私個人の目安です。年齢やフィットネスレベルによって適正値は異なるため、試される方はご自身の体調に合わせて調整してください)

よし、理論は完全に頭に入った。

翌朝、興奮して日の出前に目が覚めた。水を一杯飲み、明るくなるまでの間に我慢できず、私は家の中で買ったばかりのノバブラストを履き、その場で足踏みをしながらフォームのイメトレを繰り返した。

お尻の筋肉を意識し、かかと着地を避けて足の真ん中で静かに接地する。心拍数を145以下に抑え、スマートウォッチが震えないようにスマートに走る。

「完璧だ。イメージはばっちりできている」

そう確信したころ、ちょうど朝日が差し込んできた。私は新しい相棒・ノバブラストに足を通し、意気揚々と外へ飛び出した。


2. ノバブラスト驚異の「跳ね感」と、コントロールできない恐怖

道路に出て、いざ走り出してみると、やはり衝撃が走った。

「えっ、跳ねる!!! なにこれ、めっちゃ軽い!!」

1歩踏み出すたびに、餅屋が言っていた通り地面からポンポンと押し出されるような強烈な反発力を感じる。まるで足元にバネが仕込まれているかのようだ。 これまでの普通のシューズでは味わったことのない「軽快さ」と、勝手にスピードが乗っていく「疾走感」が本当に気持ちよく、最初の1kmはただただ感動していた。

「これが厚底シューズの力か……! もっと早く買えばよかった!」

しかし、その感動はすぐに、冷や汗混じりの「恐怖」へと変わることになる。


3. 厚底シューズのデメリット?初心者が陥る「トリレンマの罠」

「……待って、速すぎる。何もコントロールできない!」

ノバブラストのポテンシャル(推進力)が高すぎて、自分の意志とは関係なく、どんどんペースが上がってしまう。ここで、事前に叩き込んだはずの「理想のフォーム理論」が、音を立ててすべて崩れ去った。

なぜなら、そこにはまだ心肺機能も未熟で、筋力も圧倒的に足りない初心者ランナーにはどう足掻いても解決できない、最悪の「トリレンマ(三者択一のジレンマ)」が横たわっていたからだ。

  • ジレンマ①:骨盤前傾フォームを取ると、心拍数が死ぬ 「骨盤から前傾する走り方」を意識して走ろうとすると、ノバブラストの凄まじい反発力が働き、勝手にスピードが上がってしまう。すると、手首のガーミンが「ブルブルブルッ!」と激しくバイブレーションを鳴らし始める。心拍数がデッドラインの「145」を軽々と突破したという警告だ。
  • ジレンマ②:心拍をキープしようとペースを落とすと、骨盤前傾が死ぬ ガーミンのバイブ警告を止めようと、なんとか心拍数を145以下に抑える(ペースを落とす)ためにブレーキをかける。しかし、スピードを殺そうとすると、今度は上体を起こさざるを得ず、絶対にキープしたかった「骨盤前傾」がどうしてもできなくなってしまう。
  • ジレンマ③:骨盤前傾をあきらめると、着地が死んで膝が死ぬ 骨盤前傾をあきらめて上体が起きると、ノバブラストの跳ねるような反発力をまったく活かせなくなる。それどころか、骨盤が後傾して足が体の前方に出てしまい、あれだけ「絶対にダメ」と調べた、膝を痛める原因の「かかと寄り接地(ヒールストライク)」へ強制的に逆戻りしてしまうのだ。

前傾姿勢を取ればスピードが出て心拍(145超え)が死に、 心拍を抑えようとペースを落とせば骨盤前傾フォームが維持できなくなり、 骨盤前傾をあきらめれば、膝痛を引き起こすヒールストライクが牙をむく。どう足掻いても抜けられないハメ技を喰らっている気分で、待つものはゲームオーバーしかない。

あっちを立てれば、こっちが立たない。 事前にどれだけネットやYouTubeで知識を詰め込んでも、それを実践し、このじゃじゃ馬な厚底シューズをコントロールできるだけの身体は、今の私には1ミリも備わっていなかった。走る前に知識を詰め込みすぎたせいで、物理的にも精神的にも「超・頭でっかち」の最悪な重心バランスになっていたのだ。

結局、何一つ膝痛対策のフォームを実践できないまま、暴れ馬に振り落とされないよう必死にしがみつき、まるでロデオのような状態でなんとか走り(最後はほぼ歩き)終えた。

「NOVABLAST(新しい爆風)」という名が示す通り、私のランニングは新しい爆風に煽られ、制御不能のまま真っ赤に爆発炎上して幕を閉じた。

立ち込める黒煙のなか、右足元に残ったのは、やはりあの不穏な鈍痛だった。

「……あ、また膝が痛い。」

次回、ランニングフォーム沼にハマってゆく様子をお伝えする。

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